揚げずにとんかつと、硬派なたまご焼き(おばあの筋肉強化フルコース)

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メニュー
・とんかつ
豚ロース、ヒガシマル〈揚げずにからあげ鶏肉調味料〉
・たまご焼き
・みそ汁
豆腐、玉ねぎ、わかめ、たまご、
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

山盛りのとんかつに、たまごを2つは使った大きなたまご焼き。みそ汁の中にも、よく煮えたたまごがひとつ入っている。筋肉のもとになる動物性タンパク質をたっぷりと含んだ、おばあが定期的につくるこのようなメニューを「筋肉強化フルコース」と僕は呼んでいる。

おばあが何よりも恐れているのは、寝たきりになってしまうことだ。だから足腰が衰えないよう毎朝1時間のウォーキングを続けているし、週に3回は「おばあフィットネス」に通い、トレーナーの指導のもと筋トレをしている。

食事では動物性タンパク質が多い食材をよく口にする。朝はゆでたまご1個と、ダノンビオヨーグルトと雪印の6Pチーズを欠かさない。昼は昨晩の残りもの。そして夜はたいてい、肉か魚がメインの料理を僕と一緒に食べる。そしててたまに、運動部員がハードな練習を終えた後に食べるような、いかにも筋肉がつきそうなメニューを出す。

数日前に「筋肉強化フルコース」を出されてから僕も、自宅でできる筋トレをするようになった。82歳のおばあに孫の僕が負けるものか。そう思ってスクワットや腕立て伏せをやってみてはいるものの、すぐにへばってしまう。僕は運動部だったこともないし、まともにスポーツをしたこともない。筋トレの成果は感じられず、日を追うごとに全身の筋肉痛がひどくなるだけだ。

筋肉がつくものを食べれば、きっと筋肉痛がおさまり、筋トレの効果が現れる。そう思っていた矢先に今日のメニューが出てきた。

とんかつの衣はあられのような細かな粒でできている。これは〈揚げずにからあげ〉という、油を使わずに揚げ物ができるという優れものだ。たしか〈揚げずにとんカツ〉という、あられがパン粉にかわったものもスーパーで見かけたことがある。細かなことを気にしないおばあにとって、衣があられかパン粉かは、どちらでもいいのだろう。

パン粉を揚げたサクサクとした食感と違い、あられはひと粒ずつが固くカリカリという感じがする。やわらかな豚肉との噛みごたえのコントラストが大きく、ひと口ずつが心地いい。醤油の風味もあって鶏のからあげみたいな味付けだけど、これはこれでうまい。

たまご焼きはしっかりと中まで火が通ったハードな仕上がり。味付けは潔く塩のみだ。切り分けられていないので、箸でつかんでかぶりつく。がつがつと噛み砕いて飲み込むと、すぐに全身の筋肉に栄養が行き届き、力がみなぎってくるような気がする。

ひと口ごとに食べるペースが加速する。とんかつやたまご焼きをかじり、奥歯ですりつぶし、みそ汁で流し込んだ。飲み込むたびに、筋肉繊維の一本一本が強く太くなっていくように感じる。

すべてを食べ終え、僕は席を立った。肩幅より広く足を開き、頭の後ろで手を組み、膝を曲げて腰を落とす。そしてまた膝を伸ばす。スクワットくらい何百回でもやってやる。そう思ったけど、お腹の底から喉元にこみ上げてくるものがあった。

なんとかこらえてイスに座り直し、お茶を飲んで一息ついた。するとテーブルの向かい側でテレビを見ていたおばあが僕に振り向いた。
「トレーニングはな、続けんとあかんのや。すぐに、どうこうなるもんとちゃうで」
僕を見据えるおばあの目には、有無をいわせない力強さが宿っていた。