メニュー
・スーパーの揚げ物(エビフライ、謎の肉)
・みそ汁
豆腐、わかめ、たまご、青ネギ
・大根おろし
大根、じゃこの佃煮
・野菜
(生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草)
・ごはん
皿の上で重なるエビフライが三本。どれもうすく均一な衣をまとい、棒のようにまっすぐ伸び、しっぽの先のうすい部分が切り落とされている。衣の先端からしっぽにかけて、焼き色のような茶色い線がついている。ひとくちかじると、衣はサクサク、身はプリプリ。味は普通のエビフライ。ただこれは、おばあが揚げたものじゃなさそう。形といい、焼き色といい、おそらくスーパーで買ってきたものをフライパンであたためものだ。
手前にある楕円形の揚げ物はなんだろう。箸でつかむとずっしりくる。コロッケのようにやわらかくもないし、肉にしてはゴムみたいな弾力がある。とりあえずかじってみる。
口に入れてみれば、大体なんなのかわかる。赤ちゃんもそうやってものを区別するし、縄文人だってはじめて遭遇したものを、とりあえず食べてみたと思う。敏感な口の感覚を駆使して、ものを判別することで、人類は発展してきた。そして今を生きる僕らは、人類史上もっとも、口の感覚が鋭敏になっているはず。だけど今、僕が口に入れているものは、その感覚で理解できる範囲をこえている。
肉の味はするのに、練りもののような弾力と食感もある。断面を見ても同じく、肉のようでもあるし、小麦粉か魚肉をまぜた練りもののようでもある。肉というのも、豚なのか鶏なのか牛なのか判然としない。まずい、ということはないけど、なんなのかわからない。
おばあは昨日、冷蔵で新鮮な光り輝くなまぐろのトロを買ってきた。目利きをしたのは魚屋だけど、周囲に何件かあるなかでその魚屋を選んだのはおばあだ。おばあもまた、素材の良し悪しを見抜く目を持っている。そのおばあが、正体不明の揚げ物を買ってくるなんて。
おばあはテーブルの向かいで、揚げものにかじりついている。今、口にしているものがなにかきいてみると、
「とんかつやろ!?」
とのこと。勢いよく口の中のものがいくらか飛んだ。だけどちょっと語尾が上がった疑問形。おばあはとんかつのつもりで買ったものの、かじってみて確信が持てなくなったようだ。
口の中のものを飲み込んだおばあはまた口を開いた。
「人間はな、食べられるものはなんでも食べんとあかんときがあるんや」
そして戦時中に米が食べられず、イモや雑穀でしのいでいた話をはじめた。
僕の目の前にあるのはおばあがいうような、命をつなぐためにしかたなく食べるようなものじゃない。エビフライもあるし、この謎の揚げ物も、こういう新しい料理だと思えば悪くない。そんなことを僕が考えていると、おばあは話の最後にこういった。
「米はなかったけどな、イモも雑穀もおいしかったで!」