メニュー
・鍋焼きうどん
具材:春菊、細かく切った油あげ、しめじ、鶏肉
・塩さば
・煮物
骨付き鶏肉、厚あげ、ねじりこんにゃく、ごぼ天、たけのこ
・野菜
トマト、ブロッコリー、キャベツ、ほうれん草
・ごはん
鍋焼きうどんの具材はどれも、おばあの好物だ。底の方にも具材がたっぷり沈んでいて、麺をすすると、具材がどんどん湧きでる湧きでる。鶏肉にいたっては表面にまったく形跡がなく、土鍋の底で分厚い地層を形成している。ダシには鶏肉の油と旨味が濃厚に溶けだし、メインだったはずの「シマヤだしの素」のカツオのエキスが、風味付け程度の脇役におさまっている。そもそもはじめからダシが少なく、麺をすすり具材を口に運んでいるうちに、土鍋はほとんど空になっている。
鶏肉の旨味を堪能するために、おばあは意図してダシをすくなくしているのか。それとも単に、これ以上ダシが増えると土鍋から吹きこぼれてしまうから、結果として、このような味に仕上がっているのか。おばあ自身もよくわかっていないらしく、何度聞いてもはっきりした答えは得られない。
具材が底に沈んでいるのは、麺を後から土鍋に投入しているからだ。具材は僕が来る時間に合わせてあらかじめ煮込んである。そこに自然解凍してある冷凍麺を、僕が自分で投入し、蓋をしてひと煮立ちさせれば完成。軽く温めただけの冷凍麺には、強い弾力がある。
この鍋焼きうどんを作成するひと手間は僕がおばあにお願いして加えられた。おばあはうどんを、ぐずぐずになるまで煮込んでしまうからだ。そのぐずぐず具合は、麺が伸びているという程度ではなく、コシのある冷凍麺の表面が溶けかけているほどで、赤ちゃんがはじめて口にする時期の離乳食の柔らかさに近い。
今日、おばあはやはり、箸でつかむとくずれてしまう離乳食麺を、少しずつつまんで頬張っていた。僕がダシの量について訪ねても聞こえないふりをして、一心不乱にもぐもぐと口を動かしている。目は見開かれ、飲み込むときにだけゆっくりと細められる。うどんの熱で暖まった頬の血色が良く、いかにも幸せそうだ。
おばあの鍋焼きうどんは、麺がとろけるほどに煮込んだ状態が最も味が良くなるようにできているのではないか。僕はいつもより時間をかけ、たっぷりの具材を食べた後に、残りの麺をすすった。