いじわるおばあの牛すじカレー!ミートボールをトッピング!?

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牛すじ入りカレー、ミートボールなど、おばあが作った晩ごはんのメニュー

メニュー
・牛すじカレー
牛すじ、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、ハウス「バーモントカレー」辛口
・ミートボール 
日本ハム「国産鶏肉で作った直火焼でおいしいミートボール」
・温豆腐
木綿豆腐、かつお節
・白菜キムチ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草

おばあはこれまで、僕に対して数々の悪事を働いてきた。一年ほど前、僕が一週間ほど家を留守にしたときはひどかった。勝手に部屋に上がり込んで物を片付け、大事な書類や資料を燃えるゴミの日に出し、節電のつもりか家電のコンセントを抜きまくり、録画予約がすべて失敗していた。

しかも自分がやったと正直に白状しない。「泥棒でも入ったんやろ」と、すました顔でいうのである。もし本当にそうだとしたら、なぜ金目のものに手をつけず、物を片付け、人んちの電気代を気づかってコンセントを抜いて回るのだ。おばあはその場を取り繕うために平気でうそをつくのである。

そうした悪事の中で、特に深刻なのが、牛すじカレーをつくってしまったことだ。

おばあのつくるカレーには必ず、牛すじが入っている。牛すじには半透明のゼラチン質が多いものと、弾力がある薄い板状のものの2種類がある。ゼラチン質の方は程よい歯ごたえがあり、とろっと口の中でとろけ、板状の方はホルモンのような噛みごたえと、噛むほどに出てくるうま味が詰まっている。どちらも煮込んで崩れることがなく、ダシも出るし、味もよくしみ込むのでカレーとの相性は抜群だ。

牛すじカレーの味を知ってしまうと、普通の牛肉では物足りなくなる。外食もレトルトも、おいしいと思えるカレーのストライクゾーンは確実に狭くなった。僕は一人暮らしをしていたころ、安価なレトルトのカレーを毎日のように食べていた。今はもう、あれで満足できる自信がない。もし今、おばあが死んでしまったら、僕は何を食べて生きていけばいいんだ。

牛すじカレーを自炊するにしても、牛すじは余分な脂が多く、下茹でを何度かして「脂抜き」しなければ食べられない。人の部屋をすすんで片付ける、おせっかいなおばあでも面倒だという「脂抜き」を、僕が日常的にできるとは思えない。心配すればするほど、他の心配ごととは違って、お腹が減ってくる。

今日のカレーに入っている牛すじは、板状の方だ。幅広のきしめんみたいな形の牛すじがいくつも、カレーの表面に飛び出して波打っている。いつもより大きめに切ったものがたっぷりで、食べごたえがありそう。

そして、カレーの皿の隣には、茶色くて小さな、かわいらしいミートボール! どうして弁当のおかずの定番が皿に盛られ、カレーと一緒に夕飯のテーブルに並んでいるんだ。

おばあが湯せんで温めた、ミートボール(日本ハム:国産鶏肉で作った直火焼でおいしいミートボール)

ミートボールはよく見ると、トマトソースで覆われているものと、水で洗い流したように何もついていないものがある。皿にお湯が溜まっているところを見ると、レトルトパウチを湯せんで温めたとき、鍋肌にパウチが当たって溶け、そこからお湯が入ってしまったみたいだ。おばあは人の部屋の電化製品の、わずかな待機電力は許せないくせに、こういうところは気にしない。

とはいえ、おばあは料理に関しては、常に新しい味を追い求め続けている。カレーは特にそうだ。牛すじを入れることは、かつて僕が提案した。それをおばあはすかさず実行し、今では牛すじはカレーに欠かせない具材になっている。

カレーの隣に不自然なミートボール……これは、「一緒に食べてみろ」という、おばあからのメッセージに違いない。

おばあがつくった牛すじカレーにミートボールをトッピング

ひとつずつ箸でつまんで乗せてみると、悪くない。全体的に茶色く立体感のある見た目も、カレーとほのかなトマトソースの香りが混じりあったにおいも、食欲をそそる。

ミートボールカレーをスプーンですくう

スプーンですくって口に入れる。ミートボールがつぶれる食感が懐かしい。空気を含んだみずみずしい鶏ミンチのかたまりがほどけ、口じゅうに広がる。牛すじのダシが溶け込んだカレー、ごはん、そしてミートボールがお互いのおいしさを引き立て合う。噛みごたえのある牛すじと、ミートボールのやわらかな食感のコントラストもいい。ごはんを埋め尽くしていたミートボールは、最後までまったく飽きることなく、カレーと一緒にガツガツと平らげた。おばあも、カレーに乗せはしないものの、ミートボールとカレーを一緒に口に運んでいた。

ミートボールとカレーがこれほど合うとは。レトルトカレーを食べるときも、ミートボールをプラスするだけなら簡単だ。牛すじカレーとの組み合わせには及ばないと思うけど、普通のレトルトカレーがさらにおいしく食べられる。まさか、おばあは、自分が死んだときのことまで考えて、手軽でおいしく食べられるカレーの具材を、僕のために試してくれたのか。

おばあは食後、台所から柿と包丁を持ってきて、テーブルで皮をむきはじめた。

おばあが柿の皮をむく

今年初の柿を、手慣れた動作で素早くむく、

おばあが柿を切る

一口ぶんを切り取って、

柿を食べるおばあ

パクっと自分の口に放り込んだ。次々と同じ動作を繰り返し、あっという間に半分がなくなった。
「俺にもひとつちょうだい」
といってみても
「やらん!」
と断られてしまった。そしてもう半分も平らげた。やっぱりおばあは、自分が死んだときのことなんて考えてない。僕にいじわるをするいつものおばあだ。これだけ食欲があれば、まだまだ長生きしてくれそうだから、しばらくは食べ物の心配をしなくていいかもしれない。