季節は春だというのに気温はぐんぐん上がり、午前中でも初夏のような暖かさ。寒がりのおばあはきっと一日、体調も機嫌も絶好調で過ごせるはず!
だけど今日は、デイサービス施設には行かない日だ。リハビリの運動も、他の利用者と楽しむレクリエーションも、介護職員が付きそう大浴場での入浴もない。
はじめは行くのを面倒がっていたおばあも、一年ほど経った今ではすっかりなじんで、知り合いもでき、食事も「悪くないわ」とデイサービスを楽しむようになった。
だけど今日、せっかくの暖かく過ごしやすい日に、おばあは家でテレビを見るか、ベッドで寝て過ごすことになる。
そうだ! こんな日は、おばあと一緒に、近くの緑地公園に行こう! 天気予報では、数日後にはまた少し寒くなるみたいだし、行くなら今だ! やるべきことはいろいろあるけど……あとで頑張ったらなんとかなるさ!
というわけで、おばあの家にやってくると、思った通り、おばあの頬はピンク色で血色がいい! 最近はぼうっと眺めているだけのテレビも、今日はNHKのニュースをイスから身を乗り出して見ている。
僕が公園に行こうと提案すると、
「公園、行くんかあ!」
と張りのある声が返ってきた。そして僕の助けもなく立ち上がり、玄関に向かっていく。
家の中はなんとか歩けるけど、外は危険なので車イスに乗ってもらう。僕が折りたたみ式の車イスを広げている最中なのに、気が早いおばあはさっさと乗ろうとする。
おばあ自身も公園に行けることがうれしいようで、僕は仕事を後回しにしてきた甲斐があったと思う。
暖かな陽光とさわやかな風を感じながら、車イスを押して公園に向かった。
ところが、
「おばあ、着いたで!」
と声をかけても、返事がない。
何ごとかと顔を覗くと、目はうつろで
「ここ、どこや?」
……って、さっき自分でも公園って言ってたやんか!
暖かな空気と車イスの揺れが気持ちよくて、おばあはすっかり眠っていたのだ。
とはいえすぐに寝ぼけていることに気がついて笑顔に。それを見た僕も、
力が抜けて一緒に笑った。(その様子を通りすがりの親切な人に撮ってもらったのが、この写真)
するとおばあの鼻から、タラ~っと鼻水が!
あわてて僕がティッシュで拭くと、
また面白くなって二人で笑った。
さらに、満開の桜に似たピンクの花を発見。札に書かれた名前を見て、
「フゲンソウやって、おばあ」
と話しかけても、返事がない。顔を見ると、やっぱり……またお休み中。
今度はゆっくり寝かせておこうと思ったけど、目を覚ましてくれた。再び通行人に写真を撮ってもらおうとしていると、また、鼻からタラ~っと垂れてくるものが!?
これをしっかり拭い、
咲き誇るフゲンソウの前で、笑顔の写真が撮れた!
久々のお出かけの疲れも加わり、家に帰ってからも、おばあはウトウト。
でも、おやつに買っておいたチーズケーキ(『りくろーおじさん』のやつ)を差し出すと、
はじめはぼうっとしていたけど、すぐにパッと目を開け――
手づかみでパクり! ……って、その好物の気配を察する力、達人の域やで、おばあ!
そうツッコむと、公園で見せたような笑顔になってくれた!
そして、一口目の勢いそのままに、あっという間に全部平らげてしまった。
暖かくて気持ちがいいとはいえ、寝てばかりのおばあを、実はちょっと心配していた。だけどこれだけ食欲あれば、まだまだ一緒に公園に行くことができそう。
また花の前で笑顔の写真撮るからな、おばあ!