台所に立てなくなったおばあの代わりに、正月の準備は僕がやる! と意気込んだものの、おせち料理をどう作ればいいかわからず、全部買ってくるはめに……なる直前で届いたのは、正月らしい豪華な食材!
こんな高級食材を送ってくれる知り合いがいるなんて、おばあの人徳のおかげ! と感謝しつつ、なんとか調理して、
一品で正月感満載の料理が完成! 紅白で大きな見た目と、食べ応え抜群の濃厚な味におばあも珍しく感嘆の声を上げ、全部平らげてくれた。
それから一週間経ち、今年も心置きなく、正月のウキウキ気分から平常運転の日々に……なると思ったのに、なんでそんなに不満そうなんや、おばあ!
理由を聞くと、
「餅はもうないんか?」
とのこと。
確かに餅は、おばあの大好物。昨年まで、正月前から毎日5つは食べていた。
だけど餅は、今のおばあには危険すぎる! コロナで入院してから体に力が入りにくくなり、食欲はあるけど飲み込む力も落ちて、食事中にむせることが多くなった。
それに今年の正月も、餅をのどに詰まらせた高齢者が続出! というニュースを見たばかりだ。救急搬送されるばかりか死者も出ている。
高齢で嚥下力が落ちたおばあも、人ごとじゃない。だから今年の餅は、『年越したうどん』に角餅をひとつ、半分に切ったやつを入れただけ。それ以上は怖くて、とても出せない。
とはいえ、おばあにとって最大の喜びは、おいしいものを食べること。以前は料理を作ることも好きだと言っていたけど、台所に立てなくなった今、食べることが何よりの楽しみになっている。
そんな状態になって迎えた初の正月、好物の餅を存分に味わいたいと、おばあはこれまで以上に強く思っていたはず。だからこそ餅を食べれば、おばあはさらに元気になって、この一年を無事に過ごしてくれるに違いない!
それなのに僕は危険だからと、期待に応えることをはじめから諦めていた。
なんとか餅を安全に食べられないものか……。
考えたすえ、ひとまず餅を細かく切って焼くことに。それを水で伸ばしたあんこに入れて、お汁粉にしよう! と思ったけど、水分と一緒に餅をすすると、のどに詰まってしまいそう。
そこで、少し噛み応えのある金時豆の甘煮を、
焼いた餅にトッピング。
おばあに出すと、待ち構えていたように、
さっそくスプーンで口に運ぶ。
そして、
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(※写真の右側をタップすると3枚目で動画が見られます)
顔をほころばせ、
「おいしい」
とうれしい反応
小さな餅は、ちょっと物足りないかと思ったけど、食べやすくていいらしい。
手足のように、口も動かしづらくなっているから、
「こ、こ、こ、このほうがおいしい」
と言葉に詰まっていたけど、笑って教えてくれた。
そうこうしているうちに、
またたく間に、餅がなくなっていく。食べるペースが速くて心配になったけど、ちゃんとひと切れずつ飲み込んで食べている。これが大きいままだったら、危険だったかもしれない。
これからは、食べやすさや安全性も考えて、おいしいものを作ったるで! だからまた、次の正月を一緒に元気に迎えようや、おばあ!
※餅をまた食べたいというので、夜にさっそくもう一度作って、食べてもらいました。動画は1回目、写真は2回目のときのものです。