今日は朝から雨が降ったりやんだり。こんな日は気圧の影響か、おばあは手足の節々が痛むらしい。
それなのに……午前中におばあの様子を見に行くと、お気に入りの帽子とマスクを着けて出かける気満々だ。
「冷蔵庫に何もないから、買い物に行かなあかん」
そんなことを言うけど、雨の中、節々が傷むおばあを行かせるわけにはいかない!
「ちょっと待って!」
と声をかけても、おばあはずんずん玄関に向かっていく。僕の声は聞こえているはずなのに、頭の中にまで届いていないみたいだ。膝が痛くても、一度決めたことはやり通す持ち前の意志の固さはまったく衰えていない。こうなったら、もう、力づくで押しとどめるしかない!
ところが後ろから肩を持って止めようとしても、壊れたロボットのおもちゃみたいに進んでいく。すごい馬力だ。
やっとの思いでイスに座らせると、ようやく話を聞いてくれた。
そして僕が買い物に行くことに、意外とすんなり
「そんなら、行ってきてもええで」
と納得してくれた。ありがたがってくれてもいいのに、出てきた言葉が上から目線なのもわけがわからない。
買ってくるよう指示されたのは、煮物に使う食材やサラダの野菜、魚、それにおばあが朝に食べる玉子やアロエヨーグルトなど。さらにスーパーの棚をめぐっていると、どうしても買わずにはいられないものが!
久しぶりに見たピリ辛味のホルモン『こてっちゃん』と、下茹でをした牛スジだ。
パック入りの『こてっちゃん』は、すでにしっかり味がついていて、軽く焼くだけでおいしく仕上がる。簡単なものだけど、たまには僕が一品、作ってみよう! 濃い目の味付けでごはんに合って、ホルモンにしてはあまり固くないので、おばあもきっと好きなはず!
そして牛スジは、近ごろおばあが得意の『牛スジ入りカレー』を作ってくれないので、思わず手に取った。常備してあるインスタントのカレーに、この調理済みの牛スジを加えれば『牛スジ入りカレー』がすぐできる。これは明日か明後日にでも作るつもりだ。
買い物から帰ると、『こてっちゃん』や牛スジのことをおばあに伝え、僕はいったん自宅に戻った。そしていつもの晩ごはんの時間より早めにおばあの家に行くと――
テーブルにはすでに大きな鍋が乗っている!? しかも僕が『こてっちゃん』を焼くから、ごはんは食べないでと言ったのに、おばあはすでに食事を終えている様子。それに鍋から漂ってくるピリ辛の香りはもしや……!?
僕がたずねるより先に、
「さっさと座って食べや」
と有無を言わさず、おばあが急かす。
僕が席に着くと――
おばあが鍋のフタに手をやり――
持ち上げる。すると湯気とともに―
現れた中身は――
大根や鶏肉といった煮物の具に混ざって――
薄く丸まったホルモンらしきものが!?
そして汁は見るからに辛そうな色に染まっていて……これ、絶対『こてっちゃん』混ぜたやろ、おばあ!
煮物を作ると言っていたのに春雨まで入っていて、まるでキムチ鍋、いや、ピリ辛味のもつ鍋だ! それによく見ると、弾力のありそうな大きな肉の塊が…って、これ牛スジまで入れてるやんか、おばあ!
おばあは全然、僕の話を聞いていなかった……朝に来たときと一緒だ。
文句のひとつでも言ってやろうと思ったけど、
「これ、うまかったわ。はよ、お前も食べや」
とおばあが珍しく料理の味を褒めた。その様子があまりにうれしそうなので、僕も皿に取って食べてみると……これは!?
『こてっちゃん』のピリ辛味に、ダシのうま味が加わって、鶏肉も大根も春雨までごはんがたまらず欲しくなる味わい! 『こてっちゃん』自体は味付けが汁に溶けてあっさり味になり、これはこれでなかなかイケる。それに噛み応えのある牛スジも、ピリ辛味がぴったりで……もう、たまらない!
僕の想像のはるか上を行くこの料理、やっぱりおばあには料理の腕はもちろん、発想力でもかなわない。
メニュー
・『こてっちゃん』と牛スジのピリ辛もつ鍋
・イワシの炊いたん
・サラダ
野菜(生):キャベツ、ミニトマト、ピーマン、ブロッコリー
・ごはん
鍋以外のおかずも、
僕の好きな『イワシの炊いたん』に、
スーパーで特売だったミニトマトを乗せたサラダもあって、ボリュームも栄養バランスもばっちりだ。
食事を終えて「僕もおいしかった」と伝えようと思ったら―
おばあも食べすぎて満足したのか、座ったまま居眠りしていた。
たぶんおばあは僕が作った料理では満足してくれない。『いかにおいしくて、新しい発想の料理をおばあが作ってくれるか』を考えながら、また買い物に行こうと決めた。