おばあはマスクで怒り顔!?まさかのすき焼き失敗で、機嫌悪いんか、おばあ!

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5日前、おばあは僕の好物のすき焼きを作ってくれた。ところが、何だか様子がおかしい。濃いめの醤油色で、ネギやシイタケといった脇役たちはたしかにすき焼きだけど……肝心の肉はなぜか鶏肉でチクワなんかも入っていた。味付けは醤油と砂糖の甘辛さに加え、ダシのうま味もあって、やけに汁けが多い。

その正体は、すき焼きと煮物を合体させた、おばあのオリジナル料理だった。ダシの効いたすき焼きという感じで、ごはんがすすんでおいしかったけど、やっぱりすき焼きはいつものがいい。

とはいえ、おばあのチャレンジ精神を削ぐようなことは言いたくない。それに料理のことで僕がヘタに意見を言えば、『出されたものは黙って食え』が信条の頑固なおばあは、ヘソを曲げてしばらく口もきいてくれなくなる。

『普通のすき焼きが食べたい』という一言が言えないまま、5日が過ぎた今日、いつものようにばおばあの家に晩ごはんを食べに行くと――

テーブルの中央に陣取っている大きな鍋! それに、部屋じゅうに充満しているこの和風の甘辛い香りは、すき焼き!? 5日しか経っていないのに、またすき焼きとは……まさか、また新しいすき焼きのメニューを思いついて、作らずにはいられなかったとか……。

「何してんねん! さっさと座って食べや」

とおばあの大声が飛んできて、僕はあわてて席に着く。するとおばあが――
鍋のフタを開ける、マスクをしている祖母
待ち構えていたように鍋のフタを持ち上げる。せっかちなようだけど、『熱い料理は熱いまま食べて欲しい』という、長年誰かのために料理を作ってきたおばあのプライドと優しさがそうさせるのだ。

立ち上がる湯気と共に、現れた鍋の中身は――
祖母(おばあ)が晩ごはんに作った鍋に入ったすき焼き
醤油色に煮込まれたネギやキノコ、それにたっぷりの牛肉! これは……いつものおばあのすき焼きだ!

この前の煮物と合体したすき焼きもおいしかったけど、やっぱりすき焼きは『こういうのでいいんだよ』!

それにしても……おばあはなぜかマスクをしていて、さっきからずっと眉間に皺を寄せている。コロナ対策で普段からマスクをするのはいいとしても、なぜ険しい表情を崩さないのか。

まさか、今日のすき焼きの出来が悪くて機嫌が悪いとか!? 見た目も香りも食欲をそそる『いつものすき焼き』そのものだけど……。

具材を皿に取り、まずは牛肉を食べてみると、肝心の味は……たまらずごはんが欲しくなる、失敗どころか絶品だ! 思わず『これだよ、これ』と言いたくなる。

さらに、おかずはすき焼きだけで充分なのに――
トマトとキャベツのサラダにイワシを2匹乗せたワンプレート
近ごろ定番の『野菜と魚のワンプレート』もある。しかも魚は、僕の好物のイワシが2匹も!

それに味噌汁は――
豆腐と刻み昆布の味噌汁
豆腐が崩れているけど、僕の好きか刻み昆布がたっぷり入っている。

メニュー
・すき焼き
牛肉、シイタケ、エノキ、こんにゃく
・サラダとイワシのワンプレート
野菜:トマト、キャベツ、ブロッコリー
・ごはん

おばあの機嫌が悪くなる理由は、食卓の上には見つからない。

「おばあ、今日はマスクはめたまま、しかめっ面して何かあったんか?」
そう聞いてみると
「マスク?」
とおばあは不思議そうに目を見開いて、口元に手をやった。


もしかして、マスクしてるの忘れてたんか、おばあ!

それにこのマスク、誰かがくれた手作りのようで、ひもがゴムになっている。おばあがマスクを外すと――
顔についたマスクの紐の跡を指で触る祖母
ゴムの跡が顔にくっきりついている。そして表情はひきつった怒り顔から――
目をつぶって笑っている祖母(おばあ)
くしゃっとした笑みに変わった。

どうやらマスクのゴムがきつくて、眉間に皺が寄っていたらしい。

僕がそう指摘するとおばあは、
「そうや! もう、ええから、さっさと食べや!」
と笑いながら大声で言った。

マスクを外すのを忘れていたのが、よっぽどおかしかったらしい。僕もおばあと一緒に笑って、好物ばかりの献立をお腹いっぱい平らげた。『このいつものすき焼きが食べたかった』という気持ちは、わざわざ言わなくても伝わっていたと思う。