前回のバターチキンカレーも、その前のクリームシチューも、どちらはじめてルウを使わず作ってみた。できるまで微妙な味になると覚悟していたけど、味わってみたら、とんでもない! まずいどころかルウと変わらない……いや、ルウを超えるおいしさだった。
ルウなしのバターチキンカレーもクリームシチューも、共通する味の決め手がある。
それは――バター!
バターなんて、それまでの人生でたぶん、一度も自分で買ったことなんてない。僕にとってバターはトーストに塗るものでしかなく、そもそもパンよりごはん派だ。だから自分には無縁のものだと思っていた。
ところが、バターを使うと、えも言われぬ芳醇な風味がプラスされ、料理がぐっとおいしくなる。
だから次に作る料理も、バターが効いてるやつがいい!
メニューは、おばあみたいに買い物しながら決めよう。そう思って商店街に行くと、魚屋で“ムニエル用”の文字を発見! ムニエルといえば、たしか白身魚なんかに小麦粉をまぶし、バターで焼いたフランス料理! これはもう、作ってみるしかない! と迷わず手に取ったのはタラの切り身。
そしてそろえたのが――

こんな食材。
タラのムニエル
【食材】2食(人)ぶん
タラの切り身 2つ
しめじ シイタケ 適量
ホウレンソウ 適量
イエローズッキーニ 適量
レモン 適量
【調味料】
塩コショウ 適量
バター 10g
オリーブオイル 適量
ブラックペッパー 適量
味噌汁
【食材】2食(人)ぶん
ニンジン 1本
玉ねぎ 1個
茎ワカメ 適量
【調味料】
顆粒中華だし 適量
味噌 適量
冷蔵庫にあったもので味噌汁も作る。
ムニエルにするタラは、あらかじめ塩コショウを振ってキッチンペーパーに包み、フリーザーバッグに数時間入れておいた。こうしておくと魚は余計な水分と臭みが抜けて、ほどよく身が締まる。
味の決め手のバターは、

便利な切れてるやつ。
それでは、調理開始!
まずはタラの切り身に小麦粉をすりこんで、バター……ではなく、最初はオリーブオイルで――

皮目を5~6分焼く。バターをあとから入れるのは、できるだけ香りが飛ばないようにするため。
そのあいだに――

鍋でお湯を沸かしておく。付け合わせのホウレンソウを湯がくためだ。
そしてタラの皮に焼き色がついたら――

ひっくり返して、ここで登場! バターを入れて3分ほど焼く。
あっという間に溶けたバターを――

スプーンですくってタラにかける。これ、テレビで見たフレンチのシェフがやってたやつ~! 料理してる! って気分になるから、すくってはかけ、すくってはかけがやめられない。
やがてタラに火が通ったら皿に取り出し、溶けたバターが残っている鍋に――

さっと湯がいたホウレンソウやキノコ類、イエローズッキーニを加える。
ちなみにイエローズッキーニは、商店街のスーパーで50円という、なんだか申し訳くらいの激安価格だった。それに彩りを加えるのにもぴったりだから、迷わず買ってきた。
この付け合わせにしばらく火を通し、ズッキーニの表面がカリカリになってきたら、皿に盛りつけレモンを添え、ブラックペッパーをまぶして完成だ!
同時に作っていた味噌汁とごはんも持って食卓へ。

メニュー
・タラのムニエル
キノコとホウレンソウ、イエローズッキーニ添え
・ニンジンと玉ねぎと茎ワカメの味噌汁
・もち麦入りごはん
タラのムニエルの横で作っていた味噌汁は――

ニンジンと玉ねぎを電子レンジでチンして、茎ワカメを入れたもの。それに和風だしがなかったので、中華の顆粒だしを使って、味噌を入れただけの“ほぼ即席”。
ひと口すすると、中華の鶏ガラのうま味がしっかり感じられる。食べ慣れた味とひと味ちがって、これはこれでかなりいける!
それでは、メインの――

タラのムニエルに箸を伸ばす。

白い身はふっくらとして、簡単にほぐれる。それにしっとり……どころか、ひたひたになったバターがしたたる!
口に入れると、奥深く食欲をそそる芳醇な香り! 噛むとあふれ出るタラのうま味とバターが溶けあって、これはもう――

ごはんをかきこまずにはいられない! 僕にとっておいしいおかずは、ごはんがすすむ味ってこと!
さらに、ムニエルにレモンをしぼると、さわやかな酸味と香りが、バターとタラの絶妙な味わいを引き立てる。
和食もいいけど、こういうバターを効かせた“洋”の味わいもたまらない。
このおいしさ、介護施設にいるおばあにも味わってもらいたい。そういえば、おばあは数年前まで朝食でトーストにバターをたっぷり塗って食べていた。だけどバターといえばそれだけ。トースト以外の料理に使っているのを見たことがない。今思うと、バターのおいしさを知っているのに、なんてもったいないんや、おばあ!
だからこそ、このムニエル、食べたらきっとおどろいて、気に入ってくれるのにちがいない!
おばあは今、介護施設で暮らしている。僕が持ち込んだものは食べられないけど、いつか食べられるようになることを願って、これも食べてもらうリストに加えよう。
そんなことを思って味わっていると、なんだか力がわいてきた。
おばあが介護施設に行って、僕の食事は“ひとりめし”になってしまったけど、おばあのおかげで料理する楽しさと、新しい味への探求心が保てている。それが健康と、毎日を生きる活力になっている。だから感謝やで、おばあ!