86歳のおばあが2色のパプリカで和食を彩る、炊き込みごはんと味噌汁

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おばあの様子が、いつもと違う!? お腹を空かせた僕が居間に飛び込んできたのに、気にするそぶりもなくじっと遠くを見つめている。
食卓に着いて遠くを見つめる祖母(おばあ)
その視線の先には、クロス張りの壁があるばかり。もしかして、僕の目には映らない何かが、おばあには見えている!? 聞いてみたいけど……あらぬ答えが返ってきそうで、怖くて何も言い出せない。

おばあが近ごろ、毎晩のように死んだおじいを夢で見るという。それだけでもあの世に近づいているみたいで不気味なのに……ついに目覚めているあいだも、おじいが見えるようになってしまったのか!? もしそうだとしたら……おばあにはイタコ並みの霊感があるか、ボケてしまったかのどちらかだ!

そのどっちも、人一倍幽霊が怖くて、おばあの料理を楽しみにしている僕にとっては辛すぎる。

そんなことを考えていると突然、
「ほら……」
とおばあが声をひそめて、

「あそこにおるやろ!」
と指をさす。

まさかと思って振り返っても、やっぱり壁しかない!
「どこに、何がおるんや?」
と思わずたずねると
「黒い、虫や!」
と大声が返ってきた。

黒い虫って、まさか……暖かくなってそろそろ活発に動きはじめる、ゴキブリ!?

そんなの見たくもないけど、放っておくのも気持ち悪い。一匹でも野放しにすると、3億年以上世代を重ねてきた驚異の繁殖力で、あっという間に増えてしまう! 目を凝らして探すと、壁にあったのは小さくて黒い……ただのシミやんか、おばあ!

こんなシミ、前からあったのに、どうして今になって気になったのか……人騒がせなおばあだけど、幽霊がいないことも、ボケていないこともはっきりした。これでようやく、僕も安心して晩ごはんにありつける。

それにしても、おばあは近ごろ、見間違いや勘違いが多くなっているような……。今日はぼんやりしているようなので、晩ごはんはあまり期待できないかもしれない。そう思っててテーブルの献立に目をやると、赤や黄の色鮮やかなご馳走が!?
赤と黄のパプリカを具にした炊き込みごはん
うすい醤油色の炊き込みごはん混ざっているのは、なんと……2色のパプリカ!?

ひと口食べてみると、パプリカの甘みが、醤油味の炊き込みごはんにもぴったりやんか、おばあ! そして何といっても、この彩りに食欲がかき立てられる。

さらに――
赤と黄のパプリカ入りの味噌汁
味噌汁にも、赤と黄のパプリカが!? これも何だか楽しくなる見た目で、パプリカの自然な甘みが、ワカメやタケノコと調和して……かなりいける!

そしてサラダと一緒に盛られているのは――
トマトやキャベツと一緒に盛られた焼き魚(縞ホッケ)
謎の焼き魚。おばあに種類を聞いてみても
「知らん!」
と一喝。

出た! おばあの家では定番の『知らん魚』。端からかじりつくと皮はパリパリ! 内側のふっくらととした白身は甘く、脂が乗っていて、ごはんが欲しくなる絶品だ。

さらには、おばあ得意の――
祖母が作った鶏肉とチクワの煮物
煮物には鶏肉まで入っていて食べごたえじゅうぶん!

これほどのメニューを用意できるなんて……ぼんやりしているどころか、絶好調やんか、おばあ!

ということは、まさか、おばあが見た黒い虫というのも、ほんとにいた!? なんて嫌なことを考えてしまったけど、色鮮やかなパプリカごはんをじっと見て、黒い虫のイメージを追い払った。そして味噌汁をすすり、パプリカごはんをかき込んでいるうちに、心配事なんて全部どうでもよくなった。