祝・京都新聞掲載!っておばあ、自分が載ること忘れてる!?

10月13日、おばあと僕が京都新聞の朝刊に載った。この8年半の間に6000個以上おにぎりをつくってきた祖母と、それを食べ続けている孫ということで、おにぎりを特集するページで取り上げられたのだ。

しかも同じ欄に載っているのは、NHK「きょうの料理」の講師、大原千鶴さん。料理のレパートリーが両手の指で数えられるほどしかない僕でもよく知っている、その佇まいも、つくる料理も、まさに京都らしさを体現しているかのような料理研究家だ。

京都新聞に載る、しかも大原さんの隣に! それがどれだけすごいことか、おばあもさすがにわかっているはず!

ところが取材のときを迎えても、おばあはまったく緊張している様子はなく、質問の内容に関係ないことを好き勝手にしゃべっていた。最後まで相手がどこのだれか、よくわかっていなかったのかもしれない。

自分の写真が載った紙面を見れば、嫌でも理解できるだろう。僕らが掲載された新聞は後日、送ってもらえることになっていたけど、おばあには早く見せてやりたい。というわけで僕は当日、大阪から京都に行き、京都新聞を買ってきたのだった。

そしてその日の夜、僕は新聞を小脇に抱え、晩ごはんを食べにおばあの家にやってきた。居間の戸を開けると――

イスに座ってテレビ(ラグビー日本代表の試合)を見ている祖母

おばあはいつもと変わらず、ぼうっとテレビを見ていた。

やはり今日の新聞に載るということを、覚えていないみたいだ。昨日もその前も、何度となく伝えていたのに! まあいい……忘れているなら、思い出させてやろうやないか! この、自分の顔が載った、紙面を見よ!

僕が新聞を広げようとすると――
「そうや!」
おばあが何かを思い出したような声を上げた。よかった、さすがに忘れているはずないか。僕は一瞬安心したけど、おばあが思い出したのは、
「今日はラグビーがあったな! 何時からや?」
ラグビーワールドカップの日本対スコットランドの試合だった。

僕は手にしている京都新聞のテレビ欄を見て、
「中継は7時からや!」
と大声で教えてやった。

ラグビーの試合日程は覚えていても、新聞掲載のことは忘れてしまったのか!? おばあにとってはその程度のできごとだったということか……。きっと喜んでくれると期待して、京都の販売所まで新聞を買いに行った自分が何だか情けなくなってくる。

おばあはラグビーの試合を見ていればいいんだ! 僕はいじけながら自分の席に向かう。すると食卓に乗っていたのは、なんと――

鮪、鯵、鯛の刺身やすき焼き、みそ汁、サラダなど祖母(おばあ)が作った晩ごはん

メニュー
・刺身
マグロ、アジ、タイ
・すき焼き(ごった煮)
牛肉、シメジ、エノキ、エリンギ、しらたき
・味噌汁
油揚げ、豆腐、大根
・サラダ
生:玉ねぎの醤油漬け、ミニトマト、キャベツ
茹で:ブロッコリー、アスパラガス
・ごはん

えらいご馳走やんか!

マグロとアジとタイの刺身を皿に盛ったところ

3種の刺身が、宝石のように光り輝いている! 白身は見るからに弾力があって透き通り、マグロは血色のいい唇のように深紅で厚みがある。たまらず赤身を口に入れると、もっちりとした食感でペースト状につぶれ、生臭さのかけらもない濃厚なマグロの味わいが口じゅうに広がる。

これは並の刺身じゃない。おばあ行きつけの商店街の魚屋で、とびきり上等なやつを買ってきたのだ! 刺身以外にも――

祖母(おばあ)が作った油揚げと豆腐と大根の味噌汁

具材多めのみそ汁もある。近ごろおばあは、みそ汁をつくるのが面倒だといって、代わりに出来合いの茶碗蒸しを買ってくるようになったのに……今晩は面倒じゃなかったのか!?

そして極めつきは――

祖母(おばあ)が晩ごはんに作った、鉄鍋に入ったすき焼き

すき焼きだ! しかも具材は牛肉が、大きな鉄鍋の半分近くを埋め尽くしている。上質な刺身と牛肉たっぷりのすき焼きが同時に出てくるとは! どちらも、僕が子どものころから大好きなメニューじゃないか! ということはつまり、今日が特別な日……新聞に載ること、覚えていたのか、おばあ!!

だったら、素直に新聞を見せろといえばいいのに。僕が京都新聞を持ってきたのも、見ているはずだ。おばあはプライドが高くて強情だから、自分から僕に頼みごとができないのに違いない。

大好物を出してくれたのはうれしいけど、ここはしばらく放っておいてみよう。たまには素直に自分から、やってほしいことを伝えて欲しい。

すき焼きをごはんに乗せた、すき焼き丼

僕はすき焼きをごはんに乗せ、“すき焼き丼”にして食べはじめた。味付けはいつも通りの甘めで、牛肉の脂やごはんと合わさると、中毒的なおいしさを発揮する。もう、一度食べはじめると止まらない。夢中ですき焼き丼をかき込み、刺身を頬張り、みそ汁をすする。

その間もおばあは、テレビに映るラグビーの試合を前のめりで見ている。先制点を許した日本が同点に追いつき、逆転するという、たしかに目を離せない熱い展開だ。僕もサポーターの大歓声を聞きながら、勢いを増して食べすすめる。

やがて食べ終えたとき、日本代表が追加点を奪っていた。ランク上位の相手に、前回の大会で負けた雪辱を晴らせそうだ!

ラグビー日本代表が映るテレビを見ている祖母(おばあ)

おばあもスポーツ観戦では珍しく「おおっ! やったわ!」と声を上げて、日本代表の活躍をたたえている。

そこで僕がーー

京都新聞(10月13日の朝刊)の1面

京都新聞をテーブルに置く。一面の台風19号の被害について目にすると心が痛むけど、この日の新聞に僕とおばあが載っている。

すると、ラグビーそっちのけでおばあが振り向いた。
「それに載っとるんやろ! 見せてみい!」
興奮冷めやらぬ様子で手を伸ばす。白熱するラグビーの試合より気になるほど、実は自分が載った新聞記事を楽しみにしていたのだ。

新聞をめくっているところ

おばあは素早くページをめくって、

京都新聞を見ている祖母(おばあ)

僕らの記事が載ったページをじっくりと眺める。しばらくして、
「どうや?」
と感想を聞いてみると、
「……写真は見えるんやけどな、字が小さすぎてな」
と珍しく弱音を吐いた。

僕はおばあの隣の席に移った。ご馳走を出してくれたことと、いつになく素直になったことに免じて、記事を読んであげることにした。

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