メニュー
・サンマの塩焼き
・豚トロの唐揚げ
・たまご焼き
・煮物
厚揚げ、かぼちゃ、こんにゃく
・紅白なます
サバ、大根、にんじん
・サラダ
生:玉ねぎの醤油漬け、ミニトマト、キャベツ
茹で:ブロッコリー、アスパラガス
何だこの僕の好物ばかりのメニューは! この前の敬老の日に、おばあにプレゼントしたお返しか!?
今年初のサンマの塩焼きが、香ばしい黄金色に輝いているかと思えば
きつね色の豚トロの唐揚げが山盛りだ! 揚げ物と焼き物の主役級の料理が2種類もあって、さらに脇を固める小皿には――
たまご焼きや、
紅白なます、
南瓜や厚揚げの煮物まで! どれも一見シンプルな料理だけど、食材は魚、肉、野菜……といろんな種類があって、調理方法もそれぞれ違う。しかも全部手づくりだし、かなりの手間暇をかけないとこれだけの料理を食卓に並べることはできないぞ。
やっぱり、敬老の日のお返しとしか思えない。あの日おばあは、僕が買ってきたケーキをまたたく間に平らげた。頑固なおばあはおいしいともまずいとも、ありがとうともいわなかったけど、ちゃんと喜んでくれていたんだ! それを言葉ではなく料理で表してくれたのに違いない。
向かいの席のおばあは先に食事を終え、イスに座ったままうとうとしている。僕は心の中でおばあに感謝しつつ、箸を手に取った。そしてさあ食べようと思ったところで、肝心なものがないことに気がついた……ごはんがない。
おばあはいつも、夕飯のときにはごはんまで用意してくれている。ごはんぐらい自分で入れるのに、長年誰かに料理をつくりつづけてきたプライドが許さないらしい。だけど今晩はめずらしく、ごはんが盛られた茶碗が並んでいない。
たまには忘れることもあるだろう。黙って自分で入れてこようと席を立ち、台所に向かうと、
「ラーメンあるから、つくってきいや!」
背後からおばあの声が飛んできた。
ラーメンだって! あれだけおかずがあるのに? まさか……。半信半疑で台所に足を踏み入れると、流し台には――
明星チャルメラやんか! 本当にラーメンがあるとは! チャルメラは何度も食べたことがある定番の袋麺だけど、おばあの家で出てきたのははじめてだ。しかも妙なことに、袋はすでに開いていてーー
丼ぶりに調理前の麺がぴったり収まっている。こういうタイプの袋麺といえば、鍋で具材と一緒に煮てつくるはずだけど……ここに直接湯をかけろというのか!?
念のために袋の裏側を見てみると、やはり鍋に麺を入れて煮ると書いてある。指示通りにつくらなくて麺がほぐれるのか心配だけど、ここはおばあを信じよう。丼ぶりの隣に用意してあるのも――
煮るのではなく、乗せたほうがいい冷やし中華みたいな3種の具材だ。
コンロに乗った片手鍋の中で、湯が沸騰しかかっていた。弱火だった火力を上げると一気にボコボコと沸きだした。
この鍋の中に粉末スープを入れるべきか、それとも先に麺にかけておくべきか。少しのあいだ考えていると、
「さっきからぐだぐだと何やっとるんや。こんなラーメンもつくられへんのか」
とおばあの声が背後からしたかと思うとーー
スープの袋を取り上げられた。そして――
麺の上に粉末スープをふりかけ、続いてーー
熱々の湯をすべて流し入れる。ところが麺が丼ぶりの上のほうにはまっているので、湯にほとんど浸かっていない。やっぱり鍋で煮たほうが……と口にしかけたところで――
菜箸を持ったおばあの手が伸びてきて、麺をぎゅうぎゅう丼ぶりの底に押し込める。すると固いフライ麺はーー
真っ二つに割れて、うすい醤油色のスープに沈んだ。そしてすかさず――
具材を投入する。さらに仕上げに、
“秘伝の小袋”のスパイスをかければーー
おばあ流、明星チャルメラの完成だ!
おかずだけでも豪華だったのに、三色の具材が乗ったラーメンまで加わって、なんて贅沢なメニューなんだ! おばあはよっぽど敬老の日のケーキがうれしかったということか! ケーキ1個に比べてお礼の方が大きい気がして、何だか申し訳なくなってくる。とはいえここは、ありがたくいただこう!
麺は3分以上経ってもちょっと固いまま。でも固めが好きなら許容範囲だし、食べているうちにいい具合になりそうだ。スープをすすると、後を引くなつかしい味がした。他の醤油味のインスタントラーメンにはない、何ともいえないうま味がある。これがパッケージにも載っている、ホタテのうま味らしい。
あっさりとした3色の具材もよく合っている。ふとここに、豚トロの唐揚げをーー
乗せてみると、ラーメンに揚げ物という組み合わせが最高に食欲をそそる。さっそく麺と一緒に食べると、衣はサクサク、中身はプリプリの豚トロの食感と、固めの麺がマッチしている。ホタテのうま味が効いたスープの味も唐揚げと調和している。
これ一杯でもボリュームがあっておいしくて、じゅうぶん満足できるのに、さらにサンマの塩焼きなどもおかずもあるとは……。誕生日でもないのに豪勢すぎるよ、おばあ。ケーキ1個でこれほどの料理を出してくれるなら、また買ってこよう!
そう決めて、
「晩ごはん、おいしいわ。ありがとう!」
といって顔を上げると、向かいの席ではおばあが何かを食べていた。
チョコレートアイスだ! 食後のアイスはもはや習慣になっている。涼しくなってきたのにやめられないのだ。しかもこの前、濃厚なチョコレートケーキをプレゼントしてから、おばあはチョコレートにハマっているらしい。
そういえばおばあは、甘いものを食べすぎている。ただでさえ、アイスにチョコに飴などなど……甘いものをしょっちゅう口にしているのに、またケーキなんて食べさせて大丈夫だろうか? さっきはケーキを買ってこようと思ったけど、おばあの健康を考えると別のもののほうがいい。甘いもの以外に、おばあが喜ぶものは何だろうか?
「ケーキとか甘いもの以外で、欲しいものある?」
と聞いてみると、
「ケーキやなかったらか? そら、シュークリームがええ!」
と力強い答えが返ってきた。
そうじゃなくて、もっと甘くないやつや! といいかけたけど、それほど好きなら甘くて健康的なものを探してきてやる! そう僕は心に決めて、ラーメンをすすった。麺はちょうどいい具合の固さになっていた。