メニュー
・桜餅
・とろろ
山芋、卵黄
・温奴
豆腐、かつお節
・ポテトサラダ(3日め)
じゃがいも、きゅうり、ハム
・煮物(3日め)
手羽元、厚あげ、糸こんにゃく、ごぼ天
・みそ汁
豆腐、玉ねぎ、わかめ、青ねぎ
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
品数の多いおかずに混じって、甘そうな桜餅が小皿に3つ、ぎゅっと身を寄せ合うようにのっている。やららかなピンクのもち米は、いちど炊いて乾燥させて砕いた“道明寺粉”というものを使っていると、以前おばあから聞いた。中にはこしあんが詰まっていて、周りは塩漬けの桜の葉に包まれている。これは関西風の桜餅で、東京の方では別の形だというのも、おばあからの情報。
「ちょっと和菓子屋に寄ったら、桜餅があったんや! お前これ好きやろ!」
どこで買ったかなんて聞いていないのに、おばあがテーブルの向こうから教えてくれる。話している内容も妙だ。おばあが和菓子を買ってくることは滅多にない。一年の中でもひな祭りの日か、桜が咲く今の時期くらい。和菓子屋にはふらっと立ち寄ったのではなく、桜餅を買う目的で訪れたのに違いない。
おばあはどんな食べものでも素直に「自分が食べたいから買ってきた」とはいわない。たまたま店にあったとか、時期のものだからとか、僕に食べさせるためだとかあれこれ理由をつけて、買ってきたのを自分以外のせいにする。
おばあは早速、おかずも食べずに桜餅にかぶりついている。甘いものと季節感のあるものがおばあは好きなので、桜餅は大好物のはず。だけどおばあが目的もなく和菓子屋に寄ったら、僕の好きな桜餅があったから買ってきてくれた。なぜかそういうことになっている。
たしかに毎年、おばあが桜餅を買ってくると、僕も春の訪れを感じてうれしくなる。おばあのまねをして、おかずより先に手を付ける。桜の香りと道明寺粉のもちもちとした食感、上品な甘さのこしあん、そして塩漬けの葉のほどよい塩気が絶妙に合っている。それが今年は、3つもある。去年よりひとつ多い。
桜餅はひとくちで我慢し、おかずを食べようとして、いつもの夕飯と違うことに気がついた。ごはんがないのだ。もち米を使っている桜餅があるから、ごはんはいらないというおばあの判断だろう。それに今年は3つもあって、ごはんまで食べるとちょっと食べ過ぎだ。
だけど桜餅は甘い。なにしろ中にこしあんが詰まっている。みそ汁も煮物もとろろも、ごはんが欲しくなるおかずだ。それに口の中で甘いものとしょっぱいものが混じるのを想像すると気持ち悪くなる。
テーブルの向こう側に目をやると、おばあは桜餅とおかずを交互に食べ進んでいる。頬は桜の花のように血色がよく、表情だけを見ると、とてもおいしそうだ。
おばあはごはんを出さず、ひとりに3つも買ってきた桜餅を主食にしている。しかもおいしそうだ。とにかくおばあのせいにして、先入観を取り払い、桜餅と一緒におかずを食べてみよう。
煮物の手羽元をかじって、半分になった桜餅を口に入れる。肉のうま味と、醤油のしょっぱさ、そこにこしあんの甘味がやってきて、もち米のつぶつぶとした食感が……悪くない。もともと葉っぱに塩気があって、もち米の形が残っているからか……。
「うまいか?」
めずらしくおばあが味の感想を聞く。
「ああ、うまいよ」
と僕は答えた。来年もまた、僕のせいにしておばあは桜餅を買ってきたらいい。