メニュー
・鶏肉の揚げ焼き
骨付き鶏肉、鶏もも肉、ヒガシマル醤油「揚げずにからあげ鶏肉調味料」
・なんきんの炊いたん
かぼちゃ
・みそ汁
豆腐、わかめ、青ネギ
・野菜
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
僕が夕飯の席につくと、台所で何かを焼いていたおばあが、料理をのせた皿を両手で抱えて持ってきた。焼いた鶏肉がカレーを入れる深皿から、転がり落ちそうなくらいどっさり盛られている。
2人でも食べきれるかわからないほどの量だ。おばあが3分の1、僕が残りを平らげれば、どちらも満腹になるだろう。そう思って、食べる量を見積もっていると、おばあは僕の目の前にあったごはんやおかずを押しのけ、鶏肉が山盛りになった皿を置いた。テーブルの端にあった僕の箸が一本、鶏肉の皿に押されて膝に落ちた。
これではテーブルの反対側に座るおばあの箸が、鶏肉に届かないじゃないか!と伝える間もなく、おばあは大量の鶏肉を残し再び台所に立ち去った。僕はうつむくようにして、顔の真下で香ばしいかおりが立ちのぼる鶏肉を見た。
鶏肉の表面には、小さなアラレのようなつぶつぶがまぶしてある。これは以前にも食べたことがある。「揚げずにからあげ」という、少ない油で揚げたように調理できる便利な粉だ。表面がカリカリの唐揚げみたいな食感になっておいしい。だけど衣の役目をする小さなアラレが油を吸うので、普通に焼いたものよりお腹にたまる。
おばあが台所から戻ってきた。ゆっくりとしたすり足で、両手に抱えているものは深皿。そこに山盛りになっているものはやっぱり、鶏肉だ!
おばあは席につき、鶏肉が山となった深皿を、当然のように自分の目の前に置いた。おばあが鶏肉好きなのは知っていたけど、まさか……これほどとは。孫の僕でも食べきれないような量を、おばあは腹に収めようとしている。大好きな鶏肉ならそれが可能だというのか。
おばあがひとりで食べようとしているものを、50歳も若い僕が「食べきれそうもない」なんて情けないこと、いえるわけがない。おばあは早速、食べはじめている。僕も負けていられない。
この鶏肉の山は、おばあからの挑戦状だ。僕は意を決して箸をつかんだ。鶏肉は一種類ではなく、骨付きのものと骨なしのものが混在していた。骨付きのものは手羽で、肉にぷりっとしたハリがある。骨なしはもも肉で、やわらかくてジューシーだ。2種類の鶏肉を使い、大量に食べても微妙な味の変化があり飽きずおいしく味わえる。さすがに鶏肉好きだけあって、おばあ、わかってやがる。
飽きない工夫や、僕の好きな唐揚げのような食感もあり、おばあに対する競争心も手伝って、僕は夢中で食べ進んだ。だけど最後の3切れというところで食べるのをやめた。これ以上食べると、お腹に入ることは入るけど、おいしく食べられない。
顔を上げると、テーブルの向かいのおばあと目が合った。おばあの皿に残っている鶏肉は半分ほど。そこでおばあも食べるのをやめたのだ。
「ちょっと、つくりすぎたかもしれへんな」
そういって、おばあは笑った。僕も笑って、台所からサランラップを持ってきた。テーブルでは残った鶏肉がひとつの皿にまとめられていた。僕はそれをしっかりとラップで密閉した。