誰がつくっても失敗しない!?冷凍「お水がいらないラーメン横綱」

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メニュー
・ラーメン(なべやき屋キンレイ「お水がいらない ラーメン横綱」)
・シュウマイ(冷蔵)
・野菜
(生:キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草)

麺が多すぎる。あたためるだけでいい冷凍のインスタントラーメンを、おばあはぐつぐつ煮込んだのに違いない。水分がいくらか蒸発して濃くなったスープを、麺がたっぷり吸ってふくらんでいるのだ。箸でつかもうとしてもコシがなく、だらしなくちぎれてしまう。こんな麺がおばあは好きだという。

おばあが生まれ育った愛媛の山奥では、育てた小麦を粉にして、うどんをよくつくっていたそうだ。隣県の香川の讃岐うどんと同じく、生地の上に布をしいて足で踏んでこねていたという。だとしたら完成したうどんも、讃岐うどんと変わらないコシの強いものだ。おばあの実家ではうどんを調理するとき、このラーメンのようにやわらかくなるまで煮込んだのだろうか。せっかく足で踏んでコシが出たというのに、苦労がムダになってしまうじゃないか。

だけどそれを、おばあに言うつもりはない。ものごとの好き嫌いにまつわることは、感情的になりがちで、口げんかに発展してしまう。おばあとの言い合いは僕のほうが一方的に罵倒されて終わるけど。ただ夕飯に、麺類があるときは、できるだけ自分でその麺を煮るようにしている。

先日も冷凍のインスタントラーメンを自分で作った。だけど水の分量を間違えてしまい、スープがかなりうすくなってしまった。

今日おばあは友達のナカムラさんたちと、料理を持ち寄って食事会をしたという。そこで昼から夕方まで飲み食いをしていた。夕飯は用意していないので、僕には冷蔵庫にある野菜とシュウマイ、そして先日の冷凍ラーメンを出してくれることになった。

前回、僕は自分でつくって失敗してしまったので、今回はおばあにすべて任せることにした。どんなラーメンが出てくるのだろうか。

前回はおばあも、僕と一緒に同じラーメンを食べた。
「前と同じラーメンか」
と聞いてみる。
「同じや!」
とおばあはいって台所に去っていった。

あたためるだけなのに、なかなか戻ってこない。すると案の定、麺がスープを吸うまで煮込んだ冒頭のラーメンが出てきた。麺のことはすこし残念だけど、覚悟はしていた。

それよりも驚いたのは、「同じ」といっていたのに、ラーメンの種類がちがうことだ。前回は醤油ベースのあんかけラーメン、今回はスープが白濁したとんこつラーメンだ。

僕は自分ですこし食べたあと、おばあに味見をさせた。
「前と同じラーメンか」
「同じや!」
とおばあはいい切る。
「ラーメンはラーメンや」
とのこと。

スープのなかに中華麺が入っていれば、すべて同じものだとおばあは本気でいっているのか。僕にとっては前のものと比べると、今回のラーメンはまったくの別ものだ。ほんの数日前のことなのに、おばあはもう忘れてしまったのだろうか。おばあはプライドが高いから、忘れたとはいいたくなくて、でまかせをいっているだけだ。そうであってくれ。本当に忘れてしまったと判明するのは怖いけど、聞かずにはいられなかった。

「この前、一緒に食べたのは、あんかけラーメンだったやろ」
「そうや」
とおばあは答える。話を合わせているだけかもしれない。そう思って、おばあの記憶力を心配していると、
「お前は、水の量を失敗してたからな」
とおばあはいって、にやりと笑った。

なんだか馬鹿にされている気がして腹が立ってきた。僕は立ち上がり、台所に向かった。ゴミ箱からラーメンの包装を取り出す。おばあに突きつけて、前に食べたラーメンとはちがうことを認めさせてやる。

手に取った包装を見ると、「お水がいらない」と書いてあった。裏面のつくりかたに目をやると、麺や具材と一緒にスープも凍っているので、かたまりを鍋であたためるだけで完成するという。前回、水の量を失敗した僕に対するあてつけか。

いや、おばあはパッケージのつくりかたなんて見ない。勘をたよりに、好きなだけ煮込んでつくるのだ。そう思うと、我慢ができないくらいお腹が減ってきた。席に戻って黙って麺をかき込み、スープを全部すすった。