メニュー
・カレー
玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、牛すじ、(付け合わせ:らっきょう)
・なます
大根、にんじん、サバ
・野菜
(生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草)
今日のカレーは、何かがちがう。夕飯を食べにおばあの家の前までやってきたとき、カレーのときはいつも、よだれが出そうなスパイシーな香りがあたりに充満しているのに、今日はほとんど匂いがなかった。
だけど目の前の皿から立ちのぼってくるのは、おばあがつくる嗅ぎなれた香り。カレーが出てきたのは久しぶりなのに、数日間じっくり煮込んだようなとろみがあり、具材はほとんど原型をとどめていない。色が濃く、洋食屋の欧風カレーみたいだ。
おばあはカレーのつくりかたを変えたのだろうか。たとえばたっぷりの玉ねぎを、飴色になるまで炒めれば、欧風カレーの色が出る。そのあとに、細かく切った具材も投入してしっかり火を通す。それで濃い色と具材の煮込まれた感じが出せるはず。
カレーのとろみは小麦粉で出す。今日のカレーは、いつもおばあがつくる、バーモントカレーをベースにいくつかのルウを混ぜた香りがする。おばあは市販のルウを使い、さらに小麦粉を追加しているのかもしれない。
丁寧に、らっきょうまで添えられている。これは、はじめてのことだ。気合を入れて新しい製法でカレーをつくり、勢いあまってらっきょうを添えた。そうだとしたららっきょうは、「今日のカレーはいつもとちがうで」という、おばあからの無言のメッセージにちがいない。
おばあの意気込みにこたえるため、僕も気合を入れて味わおうと決心した。スプーンに山盛りカレーをすくい、口に入れる。おばあのつくったカレーの味が口の中に広がり、香りが鼻から抜ける。なつかしい場所に帰ってきたような気持ちになる。やっぱりこのカレーが僕は好きだ。ただいつもとちがうのは、玉ねぎをよく炒めた甘味があり、よく煮込まれたような具材の柔らかさととろみが感じられること。
おばあは前回よりもおいしいカレーをつくろうと、毎回すこしずつつくりかたを変えている。今回は大きく変更したみたいだけど、ちゃんとおばあのつくるカレーの大事な部分を残している。それが何なのか、はっきりとはわからないけど。
「今日はいつもとちがうな」
と僕は感想をつげる。するとおばあは、
「そや」
とそっけない。いつもならおばあは、料理で手間暇をかけたところに僕が気づけば得意げに語る。今日はどうしたのだろう。
「具材をしっかり炒めて、小麦粉を入れてるんやろ」
具体的なつくりかたを聞いてみると、
「冷凍しとったんや!」
と怒鳴られた。らっきょうはたまたま、おばあの地元の愛媛の山奥から送られてきたものだという。
これより前に僕がおばあのカレーを食べたのは一ヶ月ほど前。そのカレーをおばあは冷凍していたのだ。あのときは2日連続でカレーを食べた。ということは今、僕が食べているのは3日めのカレーということになる。
だけどこのカレーは、あのときのものを冷凍しただけでは出せない、炒めた玉ねぎの甘味がしっかりと加わっている。おばあに玉ねぎのことを聞いてみるが、
「せやから、冷凍……したんや」
と、はっきりとしない返事。
たぶんおばあは一ヶ月前、あまったカレーを冷凍する前に、玉ねぎを炒めて加えていた。解凍したときに新しいおいしさが加わる一工夫だ。
最近、忘れっぽくなったおばあはもう、おぼえていないらしい。だけど僕には、はっきりわかる。小さなころから食べている、おばあのつくったカレーだから。