正月のおかずは茶わん蒸し

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メニュー
・茶わん蒸し(市販品、みやけ食品「手造り茶わんむし」)
えび、しいたけ、ぎんなん、ホタテ
・栗の甘露煮
・黒豆
・なます
大根、にんじん、サバ
・酢れんこん、酢ごぼう
れんこん、ごぼう
・野菜
トマト、キャベツ、ブロッコリー、アスパラガス
・ごはん

おばあはたしか、茶わん蒸しをつくっていた。僕の記憶があいまいなのは、幼稚園に入る前くらいのことだから。そのころのことはほとんど覚えていないけど、柔らかくてあったかい黄色いぷるぷるしたものを、スプーンですくった感触が今でも残っている。そしてその味がおいしかったことと、おばあの笑顔を同時に思い出すけど、あれは、おばあがつくった茶わん蒸しではなかったのだろうか。

今でも、おばあはよく食卓に茶わん蒸しを出す。でもおばあがつくったものではなくて、スーパーで買ってきたものだ。「茶わん蒸し、つくってたことあるやろ」と聞くと、おばあは否定も肯定もしない。「買ってきたやつ、あたためるだけでうまいなあ」と、市販品の手軽さと味を褒めて、話を終わらせようとする。

たしかに市販のものもおいしい。僕は近くのダイエーに行くたびに何種類か買って、小腹が空いたらよく食べている。回転寿司屋では必ず注文するし、定食屋でもセットになっているものを選ぶ。だけどおばあがつくったものは、はるかに上をいく絶品。幼児の僕にとって最高のごちそうだった。というのは、記憶を美化しすぎているのだろうか。

今日の茶わん蒸しは、おばあが正月用に買い忘れた食材を、僕がかわりに買いに行ったときに選んだものだ。パッケージに赤字で「寿」とあり、エビやシイタケ、かまぼこ、ぎんなんに加え、ホタテまで入っている豪華版。値段も2つで398円と、特売品の倍の値段がするけど、正月らしいもののほうが、たぶんおばあも喜ぶ。

そう思って選んだ茶わん蒸しと一緒に出てきたおかずが、おせちの残りと野菜。甘い黒豆や酸っぱいなます、茹でたブロッコリーではごはんに合わない。必然的に、茶わん蒸しでごはんを食べることになる。好きなものだし合わないことはないけど、なんだか物足りない。

「茶わん蒸し、好きだったやろ」。僕の気持ちを見透かしたようなことを言う。返事をしないでいると、おばあはさらにつづける。「おまえが小さいときに、ごはんにかけたら喜んで食べてたで」。

僕はそんな食べ方をしていたのか! というより、やっぱりおばあは小さかった僕に、つくってくれていたのだ。理由はよくわからないけど、そう確信した。

茶わん蒸しをスプーンですくって、ごはんにかけて食べてみた。あの幼かったころに食べた味にはほど遠い。おばあにまた、つくってもらいたい。レシピを忘れていないことを祈ろう。