おばあは先に晩ごはんを食べ終え、じっとテレビを見ている。僕が部屋に入ってきても、チラッとこちらに目を向けただけで、まるで関心を示さない。晩ごはんもやる気がなく、ごはんと干からびたメザシだけだったらどうしよう。そんな心配はーー
ちょっとでも考えるだけ無駄だった! テーブルの上に目をやると――
メニュー
・カレイの揚げたん
・根菜の煮物
大根、じゃがいも、ごぼう
・ナスと白菜の味噌汁
・生ピーマンと茹でほうれん草
・ひきわり納豆
・ごはん
こ……この、メニューは!
野菜たっぷりで、煮物は見るからに味が染みているし、カレイの唐揚げや味噌汁、ひきわりの納豆まであって……僕の好物ばかり! こんなメニュー、何もいうことあるわけない! どの料理もシンプルだけど、おいしくなる手間ひまがかかっているのが、見ているだけで伝わってくる。ごはんに合うのは確実だ。
だけどひとつ気になるのは――
おばあのそばで東京タワーのようにそびえる赤いチューブ! ケチャップなんて滅多に買ってきたことないのに……今日の和風の献立の、何にかけろっていうんや、おばあ!
だけどわざわざ食卓に出しているということは、この中にどれか、かけるべきものがあるはず。
おばあに聞いてみると、
「そんなん、好きなもんにかけえや!」
と当然のことのように言う。
一体、どれにかけろっていうんだ! カレイにはポン酢がかかっているし、さすがに納豆や煮物にかける勇気もない。
残るのは……そうか! 生ピーマンと茹でほうれんそうか!
思い切ってたっぷりかけて食べてみると、マヨネーズやポン酢もいいけど……ケチャップもかなりいける! ピーマンはナポリタンやピザを思い出すし、味の濃いほうれん草にもケチャップの酸味が調和している。
おばあもこうして食べたのかたずねると、
「そんなん、かけへん。醤油かけてるわ!」
となぜかキレられた。
だったらどうして、この食べ方を思いついたのか……そしてなぜ僕にだけケチャップを出したのか……まったくもって謎だけど、ケチャップ味のほうれん草を噛みしめているうちに、すぐにどうでもよくなった。