メニュー
・カレー
玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、牛すじ、ルウ(バーモントカレー、印度カレー?)
・なます
大根、にんじん、サバ
・野菜
トマト、ブロッコリー、キャベツ、ほうれん草、アスパラガス
テレビを見ていたら、フレンチのシェフが、牛のすじ肉を赤ワインで煮込んでいた。牛すじはアクや脂が多くて下処理が面倒だけど、いくら火を通しても固くならずにダシが出るので煮込み料理には最適だそう。それなら、僕の好物のカレーに入れると、ものすごくおいしくなるのではないか。
テレビに出るほど有名なフランス料理店のシェフが、面倒な手順を踏んでやっとできあがるくらいだから、どうせおばあには扱えないだろう。そう思った僕は、洗い物をしていたおばあに、「カレーに牛すじ入れてくれや」とからかい半分、軽い気持ちで言った。「なんでや」と、聞き返されたので、「うまくなるからや。でもどうせ、できんやろ」と理由を答えた。これにはおばあは返事をせず、黙々と洗い物を続けていた。僕は「ふーん。お得意の聞こえないフリか。やっぱり図星やったんか」と思って、それ以上何も言わなかった。
すると次の日、出てきたのがカレーだった。これ見よがしに牛肉がごろごろと入っている。牛すじなんて面倒くさい食材を使えと要求した、わがままな孫に対するあてつけで、牛肉をたっぷり使ったビーフカレーをつくったのだろうか。いや、よく見ると、牛肉には脂とはちがう白っぽいゼラチン質の部分がある。まさか。と思って、口に入れると、ぷるぷるとした食感。ゼラチン質は肉の繊維といっしょにとろけ、ほどよい噛みごたえのあるすじが残った。これが、おばあの牛スジカレーをはじめて食べた瞬間だった。そのときの、おばあの勝ち誇った顔はわすれられない。本当に腹の立つ表情をしていた。
それから13年ほど経った今日も、おばあがつくったカレーは牛すじ入りだ。なぜか牛すじを入れはじめてから、おばあはカレーの改良に余念がない。基本的な具材は同じだが、玉ねぎの量や炒める時間、そしていつも何種類か使う市販のカレールウの組み合わせなどを変えているようなのだ。
いつもマイナーチェンジを繰り返しているけれど、おばあが理想とするカレーとは何なのだろうか。よくわからないまま今日も、おばあのカレーを口に運ぶ。今日のはけっこう辛口だ。あ、そういえば、前回のカレーを食べたとき、僕は「甘すぎる」なんて、言った気がする。まさか、いつも僕の感想を反映したカレーをつくっているのか。それなら、今回は何というべきか。僕の一言に、重大な責任があるような気がする。まあ、毎回おいしいから何でもいいか。