おばあの代わりに買い物に行くことが増え、地元密着のスーパーの底知れない魅力に圧倒されるようになった。野菜は毎回、何かが入れ替わって見たことがないものも置いてあるし、タダ同然の特売の値札を二度見せずにはいられないし、そこに集まる人の行動は予測不能だ。
今日もおばあが整骨院に行っているあいだに、また僕が買い物に行った。するとおばあより少し若いくらいのご婦人に話しかけられた。しかも2回も。
このブログやインスタグラムを見ていて、おばあと僕を知っている人……というわけじゃない。
一人目は野菜売り場でキャベツを選んでいると、背後から親しげな調子の大阪弁が聞こえてきた。知り合いかと思って振り向くと全く心当たりがなく、マスクで声がこもっているのに早口でまくし立ててくる。聞き取りにくかったけど、ようは「白菜でかくてお買い得」という話だった。
店員でもないのに白菜をすすめられて、思わず手に取りカゴに入れた。当然そのご婦人も白菜を買うだろうと思ったら、カゴには特売のバナナと柿しか入っていなかった。自分はいらないのに熱心に人にすすめるとは……一体どういう心持ちなのか見当もつかないけど、たしかに『でかくてお買い得』なのでありがたい。
二人目は、鮮魚コーナーで立ち止まっていると、僕が押していたカートのカゴの中身を触ってくる人が!? 何ごとかと思ったら「たまごが落ちそうやから」と、位置を直してくれていた。人の買い物カゴの中なんてほとんど気にしていないし、品物を触るなんて僕にはとてもできないけど……たまごを救ってくれて本当にありがたい。
スーパーでは毎回のように、おばさまのコミュニケーション力と気配りのすごさを実感させられる。それに僕はおばあと毎日顔を合わせているお陰か、おばあと近い年代の方々が打ち解けやすいオーラを放つようになっているのかもしれない。
それから鍋の素コーナーで見つけたのが、『濃厚豆乳鍋つゆ まろやか坦々』だ。豆乳飲料を出しているキッコーマン製だからおいしくないわけがない! とご婦人にすすめられずとも迷わずカゴに入れた。
そして購入した鍋の素や食材を――
おばあの家に置いて一度自宅に帰り、晩ごはんの時間にまた、おばあの家にやってきた。
食卓には大きな鍋が乗っている。その中身はもちろん――
豆乳鍋だ。あの『でかくてお買い得』の白菜やニンジン、厚揚げなど、僕が勝ってきた具材がたっぷり入っていておいしそう!
それにしても……その細長い魚の群れは――
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鮮魚コーナーで珍しく見つけたキビナゴまで、鍋に入れてしもたんか、おばあ!
理由を聞くと「おいしいから」だそう。鍋の具として初めて見たからちょっと驚いたけど――
食べてみると、たしかにキビナゴはダシが出て、野菜にもうま味が染み込んでいる。まろやかな豆乳やゴマの風味も加わって、ごはんにもよく合うし……これは、絶品だ!
ひとりだったら鍋をすることはないし、ましてやキビナゴを投入するなんて思いもつかない。やっぱり僕はおばあのお陰でおいしいものが味わえて、栄養もとれて、元気に生かされていると実感する。ちょっと気が早いけど、クリスマスはおばあの好きなケーキをプレゼントするのが楽しみになってきた。