『特売』の魔力に勝てず豚肉入りになったカレー…ってこれ、カレーと違うやんか、おばあ!

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昼間におばあの様子を見に行くと、居間の戸を開けたとたん
「カレーするから、肉と玉ねぎ買うてきて」
と大声で指令が飛んできた。

やった! 久しぶりにおばあのカレーが食べられる! というよろこびで、これから帰ってやることあるのに……という不満は一瞬で吹き飛んだ。

近ごろおばあが作るカレーといえば、パック入りのレトルトだ。本当はルウで具材をじっくり煮込んで作ってほしいけど、おばあの手間がかなり省けるのでレトルトも嫌とは言えない。それにレトルトの味も悪くないし、何より具材をたっぷり追加してオリジナルの味に仕上げてくれる。それも立派なおばあのカレーだ!

レトルトカレーは買い置きのものがあるそうで、僕は肉と玉ねぎを買いに行きつけのスーパーに急いだ。

カレーには当然、牛肉や! と決めて肉売り場に向かうと、豚肉のところに『本日の特売』の文字が。カレーに豚肉!? と迷ったけど、結局『特売』の魔力には勝てず宮崎産の豚肉の切り落としをカゴに入れた。

そして玉ねぎも、小ぶりなものを詰め合わせた『特売』の品を、おばちゃんと争うように手に取った。主婦が『特売』の文字に集まる気持ちがよくわかる。

さらにカレーといえば、僕は『CoCo壱番屋』で覚えた納豆トッピングがやめられない。というわけで納豆も購入しておばあの家に戻った。

「肉は特売の豚にしたけど、いいよな?」
とおばあに聞くと
「まあ……ええやろ」
としぶしぶ納得してくれた。僕と同じく『カレーは牛肉派』のおばあも、『特売』の呪文には抗うことはできないらしい。頑固なおばあを一言で屈服させる『特売』の魔力おそるべし。

やがて晩ごはんの時間になり、お腹を空かせておばあの家に向かった。玄関の戸を開けて鼻から空気を吸い込むと、カレーのときは決まって漂ってくる食欲をそそるスパイシーで芳醇な香りが……しない!?

レトルトのカレーだから、ルウのときより香りが薄いのかも……。それに事前にカレーとわかっていて期待値が高まっているぶん、想像より香りが薄くてあまり感じられないのかもしれない。

居間の食卓には――
祖母・おばあが作った豚肉と玉ねぎが大量に入ったカレーに見えるハヤシライス
たしかに玉ねぎと豚肉が山盛り入った、深い色合いのカレーが用意してある。

向かいの席ではおばあが――
食卓に着いてテレビを見ている祖母・おばあ
先に食事を終えて、ぼうっとテレビを見ている。だけどカメラを向けると――
手づくりマスクを着ける祖母(おばあ)
「ちょっと待ちや」
と言いながら、知り合いからもらった手作りマスクを着けはじめた。
手作りマスクを着けた祖母・おばあ
お気に入りのキノコ柄マスクでおしゃれをして、すまし顔をしているところを見ると、どうやらカレーの出来はいいらしい。

いつものサラダも――
トマトやブドウ、刻み昆布が乗った野菜サラダ
ミニトマトのほかにブドウや、刻み昆布までトッピングされたスペシャル版だ。

これはカレーも期待が持てる! だけどやっぱり、香りがしないような……。それによく煮込んだ欧風カレーみたいな色だけど、とろみはあまりなさそうだし、もしかしてこれ、カレーにそっくりなアレなのでは!?

メニュー
・豚肉と玉ねぎのカレー?
・サラダ
野菜:キャベツ、ミニトマト 刻み昆布、ブドウ

恐る恐るひと口食べてみると、やっぱり! これ、カレーじゃなくてハヤシライスやんか、おばあ!

「おばあ……今日のカレー、味はどうやった?」
そう聞いてみると
「甘かったけど、うまかったわ」
と味には満足しているらしく、甘口のカレーだと思い込んでいる。

たしかにおいしいから、僕も問題なんてない。ハヤシライスならカレーよりも『豚より牛』がよさそうだと思ったけど、洋風の味わいに大量の豚肉がなじんで、しっかり主役になっている。

こうなったら豚肉のハヤシライス、ありがたく味わうしかない!

カレーのために買ってきた納豆は――
パック入りの納豆
せっかくだからちょっと冒険してみようと、しっかり混ぜてトッピングしてみると――
納豆をトッピングしたハヤシライス
納豆のねばりとうま味と風味が、甘くて濃厚なハヤシに意外とマッチしている!

それにしても、どうしておばあはレトルトのカレーではなく、ハヤシライスを買っていたのか!? おばあは視力が少し衰えているとはいえ、文字は読めるのに……。もしかして『カレーは牛肉派』だった僕がつい豚肉を買ったように、カレーの隣のハヤシライスが『特売』という呪文を掲げていたのかもしれない。