メニュー
・ハンバーグ
・ナスとタケノコの煮物
・ほうれん草のおひたし
・大根の千枚漬け
・サラダ
生:玉ねぎの醤油漬け、ミニトマト、キャベツ
茹で:ブロッコリー、アスパラガス
・ごはん
おおっ! 今晩のメインディッシュは――
ハンバーグだ!
おばあの家でハンバーグといえば、商店街の肉屋で買ってきたものと決まっている。だけど今晩は、いつもと様子が違う。ふっくらと丸くて、見るからに香ばしい焦げめがついて全体的に茶色っぽく……いつも以上においしそう!
まさか……今晩は出来合いのものを買ってきたのではなく、おばあが自分でつくったのか!? 僕が覚えている限り、おばあがハンバーグを手づくりしたことはない。それなのに、いきなりこんな見事なハンバーグをつくれるのか!? そもそも今になって手づくりに挑戦してみようと思うだろうか……あり得るぞ。今のおばあなら、やってくれるかもしれない。
というのも、近ごろ僕は晩ごはんだけでなく、翌日の昼ごはん用につくってくれるおにぎりも、写真に撮ってインスタグラムやツイッターにアップしはじめた。それをいくら説明しても、おばあには理解不能らしく「もう、テレビ見るから黙っとれ!」とキレられた。とはいえ、たくさんの人に見てもらっていることはわかったようで、毎回違うおにぎりをつくり、おかずも多めに持たせてくれるようになった。
おにぎりに気合を込めるようになったおばあが、勢いついでにハンバーグも手づくりした。そうであってもおかしくない。長年の調理経験を持つおばあなら、失敗せず、いきなりきれいなハンバーグをつくることも可能なはず。
他のおかずはというと、ハンバーグとは対照的に、つくり置きか買ってきたものだ。
ナスとタケノコの煮物は、昨日も食べた2日目だし、
ほうれん草のおひたしは大量にストックしてある。
大根の千枚漬けは、商店街で買ってきたもの。そして、
いつものサラダという献立だ。
ハンバーグづくりに手間と時間を集中させたからこそ、こういうメニューになったのだろう。やぱり、手づくりしたのに違いない! さすがおばあ、すごいぞ!
向かいの席のおばあは先に食事を終え、眠たそうにぼうっとテレビを見ている。
「ハンバーグ、上手につくってあるなあ!」
僕が褒めると、
「そうやなあ。上手やなあ」
と何だか他人ごとのような返事。
「そうやなあって、おばあがつくったんじゃないんか!?」
「つくったって何をや?」
おばあが聞き返す。
「ハンバーグや!」
僕が思わず大声でいうと、
「そんなんつくれるか!」
おばあは声を荒げ、
「肉屋が上手につくったんを買ってきただけや!」
とまくし立てた。
なんだって!? このハンバーグ、おばあのお手製じゃないのか!? だったらなぜ、いつもの肉屋のハンバーグとは、見た目が違っているんだ?
「肉屋のハンバーグは、もっと違うやんか。これはいつものよりおいしそうやで」
「そんなん知るか! 肉屋がつくるの上手になったんやろ」
おばあはそういい残し、食べ終えた自分の食器を持って台所に向かっていった。
商店街の肉屋が腕を上げた……そんな単純な理由だったのか。買ってきたおばあがいうのだから認めるしかない。おばあの手づくりじゃないのは残念だけど、いつものハンバーグがバージョンアップしたのなら、味はかなり期待できそうだ!
僕は勢いよく箸を手に取った。そしてハンバーグに狙いを定めたところで、台所からおばあが姿を現した。80代とは思えない颯爽とした足取りで食卓に近づき、何かを置いた――
トマトケチャップだ!
「これ、かけて食え!」
それだけいうと、おばあはまた台所に引っ込んでいった。
トマトケチャップといえば、ハンバーグにぴったりやんか! 今までおばあの家で、トマトケチャップなんて見たこともなかった。ハンバーグに合うことを、腕を上げた肉屋か誰かに聞いて、わざわざ買ってきてくれたのだろう。
さすがおばあ、おいしいと聞けば、試さずにはいられないのだ。それにしても、変だぞ。おばあもハンバーグにケチャップをかけたのなら、どうして冷蔵庫にしまってあったんだ?
疑問に思いながら手に取ろうとすると、フタに記載してある賞味期限が目に入った――
げっ! 2カ月も前に賞味期限切れてるやんけ! さてはおばあ、何ヶ月も前にハンバーグにかけようと買ったのを、冷蔵庫の奥にしまって忘れていたな。それをさっき台所に行ったタイミングで、どういうわけか思い出したのだ。
おいしいものを食べさせようという、おばあの厚意を無駄にしたくはない。だけどこれ、食べて大丈夫なのか?
幸いまだ未開封……それにもう、好物のハンバーグを前にして、空腹も我慢の限界だ。ええいっ! やってしまえ!
少しのつもりが、たっぷり絞り出してしまった。こうなったらもう、食べるしかない!
箸を入れると、みっしりと肉が詰まった心地よい感触。そして半分に割ると――
さすが肉屋の進化したハンバーグ! まさに肉、という感じだ!
ひと口かじると、凝縮された肉の食感とおいしさが口じゅうで感じられた。やっぱり、見た目通り味もよくなっている。さらに、ケチャップのトマトのうま味が加わって、箸が止まらない。一気に半分を食べ終え、ごはんをかき込む。
それにしても……ケチャップが悪くなっているのかどうか、もともと少し酸っぱいのでよくわからない。だけどもう、そんなことはどうでもよかった。僕はただ、目の前のハンバーグにかじりついた。